営業の世界には、たくさんのテクニックがあります。

初回面談。

ヒアリング。

見込み客の選別。

プレゼンテーション。

クロージング。

値引き交渉。

競合対策。

紹介営業。

営業本を読めば、いくらでも出てきます。

でも私は、30年以上住宅・建築の仕事をしてきて、営業というものは、そんなにきれいなものではないと思っています。

お客様は教科書通りには動きません。

営業マンだって、いつも合理的に動けるわけではありません。

会社の事情もあります。

上司から数字を求められる。

案件がない。

競合会社がいる。

今月契約を取らなければならない。

利益も残さなければならない。

そして住宅の場合、契約を取った後にも長い仕事が続きます。

だから私は、

営業は「契約を取る技術」だけでは足りない

と思っています。

どのお客様を追うのか。

何を聞くのか。

何を先に伝えるのか。

いつ喋るのか。

いつ黙るのか。

どこまで値引くのか。

場合によっては、いつ断るのか。

そして契約した後、最後にどれだけ利益を残せるのか。

そこまで含めて営業です。

今回は、営業本に書かれているようなきれいな理論ではなく、私自身が住宅営業の現場で、成功したり、失敗したりしながら身につけてきたことを書いてみたいと思います。

初回面談で、その後の商談の8割が決まる

私は住宅営業をしていた頃、

「初回面談で8割決まる」

くらいの気持ちで、お客様との最初の打ち合わせを大切にしていました。

もちろん、本当に統計を取って「80%」と計算したわけではありません。

それくらい重要だという意味です。

なぜ初回面談が重要なのか。

住宅営業の場合、その後はご主人だけ、奥様だけという打ち合わせになることもあります。

家族全員とまとまった時間を取って、家づくりについて自由に話してもらえる機会は、意外と多くありません。

そして初回面談で得た情報が、次の提案の精度を決めます。

極端に言えば、お客様について50の情報しか持っていない会社と、100の情報を持っている会社が、それぞれ次回の提案をしたらどうなるでしょう。

当然、100の情報を持っている会社の方が、

「私たちのことを分かってくれている」

と思ってもらえる提案を作りやすい。

だから私は、初回面談でかなり話を聞きました。

3時間くらい話すことも珍しくありませんでした。

でも、こちらが3時間喋るのではありません。

お客様に3時間話してもらう。

これが大事です。

打ち合わせが終わったとき、

「え、もう3時間経ったんですか?」

と言われることもありました。

あるいは、

「家のことをこんなに話したことなかったですね」

と言われる。

面白いのは、お客様自身も、話しているうちに考えが整理されていくことです。

「そうか。私たちは広いリビングが欲しいと思っていたけど、本当に欲しいのは家族が自然に集まれる場所なんだ」

というように、自分たちの希望に自分たちで気づいていく。

つまりヒアリングは、

営業マンが情報を取るためだけにするものではありません。

お客様自身が、自分の考えを整理する時間でもあるのです。

初回面談は「尋問」ではない。でも「雑談」でもない

だからといって、3時間楽しく雑談して、

「今日は盛り上がったな」

で帰ってきてはいけません。

営業ですから、確認しなければならないことがあります。

私が最低限押さえたいと思っていたのは、

予算、工事時期、競合、資金計画、決定権者。

この5つです。

予算はいくらなのか。

いつ建てたいのか。

他にどの会社を見ているのか。

現金なのか、住宅ローンなのか。

そして、この家づくりに実質的な影響力を持っている人は誰なのか。

ただし、

「ご予算は?」

「時期は?」

「競合は?」

「ローンは?」

「決定権者は?」

と順番に聞いたら、尋問です。

お客様も嫌になります。

だから前の記事で書いたような、

「話したくなるスイッチ」

を押しながら話を広げていく。

自由に話してもらいながら、必要なところへ自然に枝を伸ばしていく。

そしてまた話してもらう。

私は、

初回面談は尋問ではない。でも雑談でもない。

と思っています。

楽しく話すことと、営業として必要な情報を取ること。

この両方が必要です。

商談で一番怖いのは「まだ見えていない人」

決定権者について、今でも忘れられない失敗があります。

私の部下が担当していた住宅でした。

まだ経験の浅い営業マンでしたが、一生懸命やっていて、

「かなりいいところまで来ています」

という話になりました。

当時、若い営業マンの商談が最終段階になると、上司である私がクロージングに同席することがありました。

そこで私も一緒に行きました。

若いご夫婦です。

話もまとまっている。

ご夫婦も非常に前向きです。

「これは大丈夫だな」

と思いました。

ところが後になって、支店長から呼ばれました。

おばあちゃんがものすごく怒っているというのです。

何が起きたのか。

おばあちゃんは、こう言いました。

「私ね、2,000万円出すのよ。私が2,000万円出すのに、私の部屋が6畳って何事なの」

部下は真っ青です。

私も驚きました。

私たちは、そのおばあちゃんを、

「お孫さんの面倒を見に来ている優しいおばあちゃん」

くらいに思っていた。

ところが実際には、住宅資金として2,000万円を出す、極めて重要な人物だったのです。

結局、この商談はうまくいきませんでした。

部下だけの責任ではありません。

上司としてクロージングに同行した私も、

「なぜそこを確認しなかったんだ」

と怒られました。

その通りです。

これは私にとっても大きな失敗でした。

営業では、

「誰が一番喋っているか」

だけを見てはいけません。

誰がお金を出すのか。

誰がローンを組むのか。

誰の土地なのか。

誰がそこに住むのか。

誰の同意がなければ話が進まないのか。

だから私は、

「決定権者は誰ですか?」だけでは足りない

と思っています。

もっと正確に言えば、

「この計画に影響力を持っている人は誰なのか」

を見る必要があります。

商談で一番怖いのは、反対している人ではありません。

まだ見えていない人です。

一発の大失敗がなくても、商談には負ける

もう一つ、似た失敗があります。

部下が担当していた比較的大きな住宅案件に、私も途中から入りました。

ご主人とは非常に話が合いました。

仕事や営業の話もしました。

かなり気に入っていただけたと思います。

ところが、商談は他社に負けました。

その後、ご主人から連絡をいただいたので、私はお願いしました。

「もう結果をひっくり返そうとは思っていません。ただ、これからの勉強のために、本当の敗因を教えていただけませんか。それをせめてもの私の報酬にさせてください」

すると、ご主人が本当の理由を話してくれました。

奥様が、最初からあまり良い印象を持っていなかった。

部下がご主人を中心に話し、奥様への挨拶や名刺交換などで、少し「自分は付属的に扱われた」と感じていたようなのです。

奥様も仕事をしていました。

住宅ローンにも関わる。

当然、家づくりの重要な当事者です。

こちらに悪意などありません。

でも、

挨拶。

名刺。

目線。

身体の向き。

話しかける回数。

そんな小さなことが積み重なって、

「私は大切にされていない」

という感情になった。

営業というのは恐ろしいものです。

契約を失うのは、一発の大失敗だけとは限りません。

マイナス1点。

またマイナス1点。

さらにマイナス1点。

その積み重ねで負けることがあります。

そしてこのとき、もう一つ学んだことがあります。

負けた後に本当の敗因を教えてもらえたのは、ご主人との信頼関係が残っていたからです。

営業中に作った信頼は、契約が取れなかったら全部ゼロになるわけではありません。

負けた商談から、本当の敗因を持ち帰れることがある。

これは営業マンにとって非常に大きな財産です。

負けた商談を、ただの負けで終わらせない

私は契約していただいたお客様にも、

「なぜ私を選んでいただいたんですか?」

と聞くことがありました。

逆に負けた場合にも、聞ける関係であれば、

「何がダメだったのでしょう」

と聞きました。

私はこれを、

勝因分析と敗因分析

だと思っています。

営業マン本人が考えている勝因と、お客様が感じている勝因は、意外と違います。

こちらは、

「プレゼンが良かった」

と思っている。

でもお客様は、

「質問したとき、分からないことを分からないと言ってくれたから」

かもしれない。

逆に、

「価格で負けた」

と思っていたら、

実は奥様への対応だった。

こういうことがあります。

だから、

負けた商談を、ただの負けで終わらせない。

なぜ勝ったのか。

なぜ負けたのか。

できる限り本当の理由を知る。

そうすると、一つの商談が次の商談の教材になります。

「競合はいません」を一度聞いて安心してはいけない

私自身が油断して負けたこともあります。

非常に感じのいいご夫婦でした。

穏やかで、話もしやすい。

資金的にも問題はなかったと記憶しています。

初回面談では当然、競合についても確認しました。

私の認識では、

「今のところ、特に競合はいない」

という状態でした。

住宅営業では、見積金額をどこまで詰めるかという判断があります。

私は、最初から何でも限界まで安くすればいいとは思っていませんでした。

会社として必要な利益があります。

そして住宅の場合、後から追加工事が出ることもあります。

地盤の問題など、契約時点では確定できない費用もあります。

ある程度利益を確保しておけば、何かあったときに会社側で吸収できる余地も生まれます。

だから私は、

「適正な利益を残しながら、出せる金額を出す」

という考え方でした。

ところが、このお客様については、

「競合もいないし、大丈夫だろう」

という油断が、どこかにあったのだと思います。

本来なら最後にもう一段、

「本当にここまで詰められないか」

と見積を精査できた。

でも、そこまでやらなかった。

そしてクロージング。

私は、ほぼ決まると思っていました。

ところがお客様から、

「ちょっと考えさせてください」

と言われました。

嫌な感じがしました。

結果は、他社。

そこで初めて知りました。

実は、他社からも見積を取っていた。

そして、その会社の方が安かった。

正確な金額はもう記憶が曖昧ですが、100万円前後の差だったように記憶しています。

その瞬間、私はものすごく恥ずかしくなりました。

お客様から言われたわけではありません。

でも私の頭の中では、

「競合いないと思って余裕ぶっこいてたでしょ? 本当はもっと詰められたんじゃないですか?」

と言われているような気がしました。

完全に私の負けです。

ここで学んだのは、

ヒアリングした情報には賞味期限がある

ということです。

最初に、

「競合はいません」

と聞いた。

だから最後までいない。

とは限りません。

途中から他社を見ることもあります。

最初から全部を話してくれていないこともあります。

状況は変わります。

だから、

ヒアリングは一度聞いてチェックを入れて終わりではない。

商談中ずっと更新していかなければいけません。

そしてもう一つ。

信頼することと、確認を怠ることは違う。

これも、この失敗から学んだことです。

営業マンは「喋るタイミング」だけでなく「黙るタイミング」を覚える

商談が最終段階に入ると、営業マンはどうしても喋りたくなります。

最後のひと押し。

商品のメリット。

会社の安心感。

今月の条件。

不安材料への回答。

でも私は、クロージングでは、

黙ることも営業

だと思っています。

住宅の契約は大きな決断です。

数千万円です。

夫婦で相談したいこともあります。

営業マンが目の前に座っていると、夫婦だけで本音を話しにくいことがあります。

そこで私は、最終的な条件を提示した後、

「あ、ちょっと電話してきます」

などと言って席を外すことがありました。

10分。

場合によっては15分。

夫婦だけの時間を作る。

もちろん、今振り返れば「電話」という演出まで必要だったのかは別として(笑)、大切なのはそこではありません。

考える時間を渡すことです。

以前、その時間を後からお客様に、

「神の時間だった」

という趣旨で言われたことがあります。

二人だけになって、

「どうする?」

「私はいいと思う」

「じゃあ決めようか」

と話せた。

営業マンが最後まで喋り続けていたら、その会話はできなかったかもしれません。

私は、

クロージングとは、最後まで喋り続けることではない

と思っています。

黙る。

席を外す。

待つ。

これもクロージングです。

契約数が多い営業マンが、本当に優秀なのか

私は営業をしていた頃から、契約件数だけで営業マンを評価することに少し違和感がありました。

もちろん、契約は必要です。

ゼロでは仕事になりません。

でも住宅は、契約した瞬間に仕事が終わる商品ではありません。

むしろそこからが長い。

設計打ち合わせ。

仕様決め。

追加変更。

工事。

引き渡し。

そして、その途中で利益がどんどん減っていくことがあります。

契約を取りたいから、大幅に値引きする。

とにかく契約する。

ところが契約時点で利益がほとんど残っていない。

その後、お客様から追加要望が出る。

現場で予想外の費用が発生する。

すると、

「どこかで取り戻さなければ」

となる。

いわゆる「盛り返し」です。

契約前には安く見せておいて、契約後の追加工事で利益を戻そうとする。

でも、お客様も賢い。

気づきます。

「契約前はあんなに安くしてくれたのに、契約した途端、何でも追加じゃないか」

となる。

そこから不信感が始まる。

営業マンも対応に追われる。

設計も疲れる。

現場も疲れる。

会社も利益が残らない。

それでも、

「今月1件契約しました」

という数字だけは残る。

私はこれを見ていて、

契約を取ることが営業のゴールではない

と思うようになりました。

私が見ていたのは「完工したときの粗利」

私が重視していたのは、契約時点の数字だけではありません。

工事が終わったとき、最終的にいくら粗利を残せたのか。

こちらです。

契約金額が大きくても、利益がほとんど残らなければ会社としては苦しい。

逆に、無理な値引きをせず、お客様にも納得していただき、最後まできちんと利益を残せたなら、その方が健全です。

だから私は、何でも値引けばいいとは考えていませんでした。

お客様から高く取ればいい、という話でもありません。

必要な原価を確認する。

会社として必要な利益を確保する。

無駄な費用があれば削る。

工夫できるところは工夫する。

そのうえで、

「ここが私の出せる金額です」

と提示する。

それが一番いいと思っていました。

「絶対に値引きしません」と最初に宣言する

住宅営業をしていた頃、私は初期の段階でお客様に、

「私は基本的に、後から値引きを重ねる営業はしません」

という話をしていました。

当時の住宅営業では、競合会社との値引き合戦が珍しくありませんでした。

最初に見積を出す。

次に上司が出てくる。

「私の決裁で200万円下げます」

さらに商談が長引く。

今度はもっと上の役職者が出てきて、

「今月だけ特別に、もう200万円」

となる。

もちろん、会社によって営業方法は違います。

現在は当時と状況も変わっているでしょう。

これは、あくまで私が住宅営業をしていた当時に経験した話です。

でも私は、お客様に最初から言っていました。

「他社さんでは、こういう営業が出てくることがあると思います」

「でも私は、最初からできる限りきちんと積算して、出せる金額を出します」

「後から上司を連れてきて、特別演出のように値引きをすることは基本的にしません」

という話です。

すると本当に、競合会社がその通りの動きをすることがありました。

お客様から、

「トラジロウさんが言っていた通りでしたよ」

と言われる。

「これが限界ですと言われた次の打ち合わせで店長さんが来て、また値引きされたんです。しかも本当に200万円くらいで、思わず笑っちゃいました」

そんなこともありました。

私は競合会社を悪く言う必要がありません。

先に、

「こういうことが起きるかもしれません」

と説明しただけです。

あとは競合会社が、そのレールの上を走ってしまった。

これは営業テクニックと言えばテクニックなのかもしれません。

でも、私の中ではもっと単純です。

最初から自分のやり方を明らかにして、最後までブレない。

それだけです。

真実は、最強の営業トークになる

私は、

「真実は最強の営業トーク」

だと思っています。

営業だから、自社を良く見せたい。

当然です。

でも、自社に不利なことまで全部隠したらどうなるでしょう。

後で分かったとき、

「なんで最初に言わなかったんだ」

となります。

私は、自社が不利になる話でも、必要なら先に話すようにしていました。

たとえば、大きな住宅計画。

当時私が扱っていた商品は木造でした。

一般的な規模の住宅なら、十分競争力があります。

でも、計画が非常に大きくなって、300平方メートル、400平方メートルという規模になれば、鉄骨系の商品が有利になる場合があります。

そういうときは、

「もしこの計画がこの規模まで大きくなるのであれば、正直に言って、弊社は少し不利になると思います」

と話す。

営業マンとしては、言いたくないことです。

でも私は言います。

なぜか。

その一言があることで、その後こちらが、

「この部分については、うちの方がいいと思います」

と言ったときの信用が変わるからです。

自社に不利な真実を言える人だから、自社に有利な説明も信用してもらえる。

私はそう考えています。

懸念事項は、後からではなく先に言う

これは住宅営業では特に重要です。

住宅には、契約時点では完全に確定できないものがあります。

たとえば、土地の状況によって発生する工事。

地盤。

外構。

給排水。

既存物の撤去。

敷地条件。

実際に調査したり工事を進めたりしなければ分からないことがあります。

見積書に、

「概算」

「予算取り」

と書くこともあります。

でも、お客様がその意味を理解していなければ、書いてあるだけでは足りません。

「200万円の予算取りです」

と言われたら、

「200万円でできるんですね」

と受け取る人もいます。

しかし本来は、

「現時点では確定できないので、仮に200万円を見込んでいます」

という意味かもしれない。

だったら、それを契約前に説明する。

懸念事項は先に言う。

これが重要です。

問題が起きてから、

「実は見積書に概算と書いてありまして……」

と言っても遅い。

お客様からすれば、

「それ、契約前に言ってくれよ」

です。

私は、

同じ真実でも、先に言えば説明になる。後から言えば言い訳になる。

と思っています。

「いいことを3つ言ったら、懸念事項を1つ言う」

営業マンは、自社のいいところを説明します。

それは当然です。

でも私は、いい話ばかりを並べると、かえって信用されにくくなることがあると思っています。

だから感覚的には、

「いいことを3つ言ったら、懸念事項を1つ言う」

くらいでもいいと思っています。

もちろん、本当に3対1で数えるわけではありません。

言いたいのは、

都合の悪いことも隠さない

ということです。

「ここは強いです」

「ここも得意です」

「これは他社と比較してもいいと思います」

そのうえで、

「ただし、この条件になると弊社は不利です」

と言う。

その方が、お客様も自分で判断できます。

私は営業マンの仕事は、お客様から判断材料を隠して契約させることではないと思っています。

必要な情報を出したうえで、

「それでもこの人、この会社に頼みたい」

と思ってもらう。

こちらの方が、契約後も強い。

イエスマンは、必ずしも信用されない

お客様から、

「これできますか?」

と聞かれた。

「できます!」

「これもできますか?」

「大丈夫です!」

「この金額でできますか?」

「何とかします!」

営業マンとしては、一生懸命です。

でも、本当にそれでいいのでしょうか。

私は、

何でもYESと言う営業マンが、一番信用されるとは思っていません。

できないことは、

「できません」

と言う。

現時点で分からないことは、

「今は分かりません。確認します」

と言う。

その予算では難しいなら、

「申し訳ありませんが、その金額では弊社では難しいです」

と言う。

自社の商品が向いていないなら、

「この条件なら、別の工法の方が有利かもしれません」

と言う。

営業マンにとって、NOは怖い言葉です。

NOと言った瞬間に、お客様が他社へ行ってしまうかもしれない。

でも、何でもYESと言って契約し、後から、

「やっぱりできませんでした」

となる方が、はるかに大きな問題になります。

だから私は、

営業マンは、断ることを覚えた方がいい

と思っています。

契約前に嫌われる勇気が、契約後の信用を作る

これは少し大げさな言い方かもしれません。

でも住宅営業では、ときに、

契約前にお客様が聞きたくないことを言わなければならない

場面があります。

予算が足りない。

希望する工期では難しい。

法的にできない。

その土地では希望する建物が入らない。

その仕様なら追加費用がかかる。

「できますよ」

と言った方が、その場は楽です。

お客様も喜びます。

でも、それで契約してしまえば、後で必ず返ってきます。

だから私は、

契約前の誠実さが、契約後の信用を作る

と思っています。

これはクレーム予防にもそのままつながります。

契約前に言いにくいことを言わなかったツケは、契約後に何倍にもなって返ってくることがあります。

営業は「契約病」になってはいけない

営業会社にいると、どうしても契約が欲しくなります。

当然です。

営業マンですから。

今月ゼロ。

来月も見込みがない。

上司から、

「どうするんだ」

と言われる。

すると、契約することそのものが目的になっていく。

私はこれを、

「契約病」

のようなものだと思っています。

本来なら追わないお客様を追う。

無理な値引きをする。

できないことまでできますと言う。

懸念事項を隠す。

とにかく契約書に印鑑をもらう。

でも、その契約が後で大赤字になったらどうでしょう。

大クレームになったらどうでしょう。

営業マンが何十時間も対応に追われたらどうでしょう。

契約した瞬間だけ見れば「1件」です。

でも会社全体で見れば、

取らない方がよかった契約

というものもあります。

営業マンは契約を取るのが仕事です。

でも、

契約を取れば何でもいいわけではない。

ここを間違えると、自分自身も苦しくなります。

営業成績は「契約率」だけでは説明できない

前の記事でも書きましたが、私は営業成績を契約率だけでは見ません。

どれだけ案件を持っているか。

どんな案件を持っているか。

その中から何を選んだか。

そして、選んだ案件をどれだけ契約できたか。

私は今なら、

案件数 × 案件の質 × 選別力 × 成約力

と考えます。

契約率が50%でも、案件が2件なら契約は1件です。

契約率が30%でも、良質な案件が20件あれば話は変わります。

だから、

「見込みの薄い客は切れ」

だけでは足りません。

切った後にも案件がある状態を作らなければ、営業マンは怖くて切れません。

営業実践とは、目の前のお客様を口説く技術だけではない。

自分が追う案件を選べる状態を作ることも、営業実践です。

案件がない営業マンは、案件を「作り始める」

これは、あまり格好のいい話ではありません。

でも現場の話なので書きます。

営業会議で、

「案件がありません」

とは、なかなか言えません。

「今月どうするんだ」

「誰を追っているんだ」

「次の契約候補は?」

と聞かれます。

本当は、いない。

でも、

「ゼロです」

とは言いづらい。

私自身、昔のお客様を引っ張り出して、

「このお客様をもう一度追っています」

というような報告をしたことがあります。

実際には、ほとんど可能性がない。

要するに、会議を乗り切るための案件です。

褒められた話ではありません。

「嘘をついてはいけません」

というのが大前提です(笑)。

でも、ここには組織として考えた方がいい問題があります。

悪い数字を言えない組織では、悪い数字が消えるのではありません。見えなくなるだけです。

案件がない。

でも「ない」と言えない。

だから、あるように見せる。

すると上司は、

「案件はあるんだな」

と思う。

本当の問題である、

「なぜ案件がないのか」

が見えなくなります。

これは営業マン個人の問題だけではありません。

マネジメントの問題でもあります。

KPIを追わせすぎると「やったという報告」が生まれる

似たような経験があります。

以前いた住宅会社では、過去に展示場へ来場したお客様や資料請求をしたお客様など、大量の顧客情報がありました。

契約が取れなくなると、

「過去客を追え」

「電話しろ」

となります。

いわゆるテレコールです。

もちろん、適切にやれば意味はあります。

でも中には、何度も電話しているお客様もいます。

記録に、

「もう電話しないでほしい」

という趣旨のことが残っている人もいる。

現場の営業マンは、

「ここにまた電話したら、むしろクレームになるよ」

と分かっています。

でも上からは、

「電話した証拠を出せ」

という話になる。

すると何が起きるか。

週末の夜。

本来の仕事が終わった後に、みんなでリストを広げる。

名前を分担する。

そして、

「この人は不在」

「この人は検討なし」

「この人は時期未定」

というように、電話したことになっている報告を作る。

今だから言えますが、そんなこともありました。

もちろん、これも正しいことではありません。

でも私は、この経験から強く思います。

現場に無意味なKPIを強制すると、現場は成果を出す方法ではなく、KPIを達成したように見せる方法を考え始める。

会社が本当に欲しかったのは、テレコール件数ではありません。

契約です。

ところが、

「何件電話したか」

を強く管理しすぎた結果、

現場が作ったものは、

「電話したという報告書」

だった。

営業マネジメントでは、ここを間違えてはいけないと思います。

同じ指示でも「誰に言われたか」で人は動き方が変わる

上司についても、印象に残っていることがあります。

ある上司は、

「悪いな。俺も上から言われてるんだよ。ちょっと付き合ってくれよ」

というタイプでした。

部下からも好かれていました。

こちらも、

「しょうがないな。じゃあやりますか」

となる。

一方で、

「とにかくリスト作っとけ」

と言って、自分は帰ってしまう上司もいる。

やる仕事は同じです。

でも、部下の感情は全然違います。

これは営業にもマネジメントにも共通します。

人間は感情の生き物です。

同じ仕事でも、

誰に頼まれたか。

どう頼まれたか。

自分の苦労を分かってくれているか。

それによって、人は頑張れたり、猛烈に腹が立ったりします。

営業実践というと、お客様へのテクニックばかりが注目されます。

でも、営業マン自身も人間です。

組織の中で人を動かすときにも、同じ原理が働いています。

要領がいいことを、私は悪いとは思わない

営業の世界では、

「あの人は要領がいい」

という言葉が、少し悪い意味で使われることがあります。

でも私は、要領がいいこと自体は悪くないと思っています。

住宅営業なら、

展示場でお客様をつかむのがうまい人。

紹介をもらうのがうまい人。

不動産会社との関係作りがうまい人。

社内から案件を回してもらえる人。

資格や技術力で信用される人。

お客様から次のお客様を紹介してもらえる人。

いろいろなタイプがいます。

全部、営業力です。

私は、

営業マンは、自分に合った案件獲得ルートを持った方がいい

と思っています。

なぜなら、案件が増えれば選べるからです。

選べれば、勝てる案件へ時間を集中できる。

すると成績が上がる。

そして成績が上がれば、さらに案件が集まりやすくなる。

営業には、こういう循環があります。

営業は「心理学者」であれ

昔作った出版企画書で、私は住宅営業実践編に、

「営業は心理学者」

という言葉を使っていました。

今改めて考えても、かなり本質を突いていると思います。

もちろん、本物の心理学者になれという意味ではありません。

人間を観察するということです。

この人は何を気にしているのか。

誰の意見を大切にしているのか。

今、迷っているのか。

もう決めているけれど背中を押してほしいのか。

本当は価格が問題なのか。

価格を理由にしているだけで、別の不安があるのか。

夫婦の意見は一致しているのか。

まだ話していない人がいるのか。

競合会社が途中から入っていないか。

そして、

今は話すべきなのか。

黙るべきなのか。

営業マンは、そういうものをずっと見ています。

だから営業は、

マニュアル通りに質問して、

マニュアル通りに説明して、

マニュアル通りにクロージングすれば終わる仕事ではありません。

相手を見ながら、その場で考える仕事です。

私が考える「泥臭い営業実践術」

ここまで書いてきたことには、派手な必殺技はありません。

初回面談で徹底的に話を聞く。

予算、時期、競合、資金、影響力を持つ人を確認する。

一度聞いた情報も更新する。

勝った理由を聞く。

負けた理由も聞く。

見込みの薄い案件を追い続けない。

そのために、まず案件を増やす。

クロージングでは喋り続けず、必要なら黙る。

契約数だけではなく、最後の粗利を見る。

無理な値引きをしない。

懸念事項を先に言う。

分からないことは分からないと言う。

できないことはできないと言う。

自社に不利なことでも必要なら言う。

そして、契約した後まで考える。

全部、地味です。

でも私は、こういうものの積み重ねで住宅営業をしてきました。

営業とは、お客様を言葉巧みに契約させる仕事ではないと思っています。

お客様に必要な情報を出し、自分も相手を見極め、双方が納得できる条件を作り、その結果として契約する。

そして契約後も、

「この人から買ってよかった」

と思ってもらう。

そこまでが営業です。

営業で一番怖いのは「その場だけうまくいくこと」

最後に、私が営業で一番危ないと思っていることを書きます。

それは、

その場だけうまくいくことです。

お客様が喜んだから、

「できます」

と言った。

契約が欲しかったから、値引いた。

聞かれなかったから、懸念事項を言わなかった。

競合がいないと思ったから、詰めなかった。

上司に怒られたくないから、案件があることにした。

KPIを達成するために、電話したことにした。

全部、その瞬間は楽になります。

でも、後から返ってきます。

だから私は、

営業で本当に大切なのは、その場を切り抜けることではなく、最後まで話がつながっていること

だと思っています。

契約前に言ったこと。

契約時に約束したこと。

契約後にやること。

完成したときに残る利益。

引き渡した後のお客様との関係。

全部が一本につながっている。

その営業が強い。

私はそう思っています。

真実は最強の営業トークです。

なぜなら、真実は後から話が変わりにくいからです。

懸念事項は先に言った方がいい。

なぜなら、同じ真実でも、先に言えば説明になり、後から言えば言い訳になるからです。

営業マンは、断ることを覚えた方がいい。

なぜなら、その場のYESより、最後まで守れる約束の方が信用になるからです。

そして、

契約を取ることをゴールにしない。

その契約が完成し、お客様に引き渡し、会社にもきちんと利益が残り、

「あなたに頼んでよかった」

と言っていただけたとき。

私はそこまで行って初めて、

営業として一つの仕事が終わった

と考えています。