住宅・建築の仕事を30年以上やっていると、いろいろなクレームに遭遇します。

営業として。

現場監督として。

設計として。

管理職として。

そして現在は、住宅会社とは利害関係のないホームインスペクターとして。

立場を変えながら、数え切れないほどの住宅トラブルを見てきました。

私は冗談で、自分のことを、

「クレーム対策本部長」

みたいなものだったと言うことがあります。

別に、クレーム対応が好きだったわけではありません。

できればない方がいいに決まっています。

ただ、難しいお客様や、こじれてしまった案件になると、

「ちょっと真山さん、行ってもらえませんか」

という話になる。

そして何度も対応しているうちに、気づいたことがあります。

クレーム対応というと、

「怒っているお客様にどう謝るか」

「どうやって納得してもらうか」

という話になりがちです。

でも、本当に大切なのはそこだけではありません。

私はむしろ、

クレーム対応能力より先に、クレーム予防能力が必要

だと思っています。

そして、もしクレームが起きてしまったら、

正しい説明を急ぐ前に、

まず相手がこちらの話を聞ける状態を作る。

ここが非常に重要です。

「難しいお客様だった」と「こちらに落ち度がなかった」は別の話

クレームが起きると、社内ではこんな会話が出ることがあります。

「あのお客さん、細かいんですよ」

「もともと難しい人なんです」

「普通のお客さんなら、あそこまで怒りませんよ」

確かに、いろいろなお客様がいます。

同じ出来事でも、気にしない人もいれば、非常に気にする人もいます。

要求の強い人もいます。

しかし私は、

「難しいお客様だった」ということと、「こちら側に落ち度がなかった」ということは、まったく別の話

だと思っています。

お客様の言い方が強い。

だからこちらは悪くない。

これは成立しません。

まず、

何が起きたのか。

こちらは何を説明していたのか。

約束はどうなっていたのか。

連絡はしていたのか。

記録は残っているのか。

お客様は何を聞いていたと思っているのか。

そこを整理する必要があります。

私の経験では、

「これは完全にお客様の言いがかりだ」

と簡単には言えないケースが非常に多くありました。

何かしら、

説明不足。

確認不足。

連絡不足。

記録不足。

言葉の行き違い。

そういった小さな火種がある。

そして、その火種を放置した結果、大きなクレームになっていることがあります。

クレームは「発生した瞬間」に始まったとは限らない

私は、クレームには前兆があることが多いと思っています。

たとえば、お客様から質問が来た。

営業マンが、

「確認しておきます」

と言った。

でも返事を忘れた。

お客様はその場では怒らない。

次の打ち合わせで、また少し説明が曖昧だった。

これも、その場では怒らない。

工事が始まって、予定より少し遅れた。

担当者から連絡がない。

また不満が一つたまる。

そしてある日、別の小さなミスが起きる。

そこで突然、

「いい加減にしてください!」

となる。

会社側は、

「え? こんなことで、なんでそんなに怒っているの?」

と思う。

でも、お客様からすれば、

「こんなこと」ではないんです。

それまで積み重なってきたものが、一気に出ただけです。

だから、

クレームは、怒鳴られた瞬間に始まったとは限らない。

もっと前から始まっていることがあります。

ベテランになると「嫌な予感」がする

長く住宅の仕事をしていると、

「これ、このまま進めたら後で揉めそうだな」

という感覚が出てきます。

私はこれを、専門的な能力というより、

「嗅覚」

のようなものだと思っています。

打ち合わせで、お客様が一瞬、

「ん?」

という顔をした。

図面を見ながら、夫婦で小さく何か話している。

見積書のある項目で、少し表情が変わった。

担当者が、

「まあ大丈夫でしょう」

と曖昧に流した。

こういうとき、私は気になります。

だから確認します。

「今のところ、何か気になりました?」

「ここ、もう一度説明しましょうか?」

「この部分は、今の段階ではまだ確定ではありません」

面倒です。

話が長くなることもあります。

でも、

その場で5分確認することで、後の5時間のクレーム対応を防げる

かもしれません。

クレーム予防というのは、特別な必殺技ではありません。

小さな違和感を、そのままにしない。

これが非常に大きいと思っています。

「概算です」と書いてあれば、本当に説明したことになるのか

住宅の見積書には、

「概算」

「予算取り」

といった言葉が出てくることがあります。

住宅は、契約時点ですべての費用を完全に確定できるとは限りません。

土地の状態。

地盤。

給排水。

外構。

既存物。

現場条件。

調査して初めて分かることがあります。

だから、現時点で想定される金額を入れておく。

それ自体は必要です。

でも問題は、

お客様が「概算」の意味を、本当に理解しているか

です。

見積書に、

「外構工事 200万円 概算」

と書いてある。

会社側は、

「ちゃんと概算と書いてあります」

と言う。

でもお客様は、

「200万円でできると思っていました」

と言う。

どちらが悪いという話だけではありません。

大切なのは、

認識が一致していたか

です。

私は、契約前に懸念事項をかなり説明する方でした。

「ここはまだ確定ではありません」

「200万円は予算として見ている金額です」

「実際の条件によって変わる可能性があります」

そこまで説明する。

なぜなら、

同じ真実でも、先に言えば説明になり、後から言えば言い訳になる

からです。

これは前の営業実践の記事にも書きましたが、クレーム予防にもそのままつながります。

住宅は、クレームが起きやすい商品である

住宅という商品には、特殊なところがあります。

数千万円という非常に高額な買い物なのに、契約する時点では完成品を見ることができません。

図面。

仕様書。

パース。

カタログ。

サンプル。

そういうものを見ながら、

「完成すると、こうなります」

という約束をして契約する。

しかも、契約後にも決めることがたくさんあります。

色。

設備。

コンセント。

照明。

収納。

棚。

手すり。

外構。

細かく挙げればきりがありません。

そして住宅は単なる「物」ではありません。

家族が住みます。

人生で一番高い買い物になる人も多い。

何十年もローンを払うかもしれない。

私はよく、

「家はロマン」

だと思っています。

だから、感情が入ります。

数千円の商品なら、

「まあいいか」

で済むことでも、

自分の家となれば済まない。

住宅会社側から見れば、

「小さな施工ミス」

でも、

お客様から見れば、

「一生に一度の家で起きたこと」

です。

この温度差を理解しないと、クレーム対応はうまくいきません。

「正しい説明」を急ぐと、かえって悪化することがある

クレーム対応で、技術者がやってしまいやすいことがあります。

お客様が怒っている。

すると、

「いや、これは施工基準上問題ありません」

「契約書にはこう書いてあります」

「図面上はこうなっています」

と説明する。

内容としては正しいかもしれません。

でも、お客様が怒りのピークにいるときにそれを言うと、

「言い訳するな!」

となることがあります。

正しいことを言っているのに、なぜ伝わらないのか。

私は理由は単純だと思っています。

相手がまだ、こちらの説明を聞ける状態になっていないからです。

ここでも、

「何を話すか」の前に、

「誰が話すか」

があります。

さらに言えば、

「いつ話すか」

もあります。

正論を言うな、ということではありません。

正論を言うタイミングがある、ということです。

まず「全部吐き出してもらう」

私が大きなクレームに対応するとき、最初から解決しようとはしません。

まず、

何に怒っているのか、全部話してもらう。

これを大切にしています。

以前、部下が担当していた住宅で、大きなクレームになったことがありました。

ここでは仮に担当者を鈴木君としておきます。

お客様は相当怒っていました。

契約前に聞いていた話と違う。

追加費用が出ている。

お願いしていたことが反映されていない。

連絡が遅い。

折り返しがない。

工期も思っていたように進んでいない。

いろいろな不満が重なっていました。

「もう解約したい」

というような話まで出ていたと思います。

私が対応に行きました。

こういうとき、私は明るく、

「こんにちはー!」

とは入りません。

表情も変えます。

声のトーンも変えます。

申し訳ないという気持ちがあるなら、

その申し訳なさが伝わる表情と声で入る。

そして、まず話を聞きます。

お客様が怒っている。

「はい」

「申し訳ありません」

「それは、いつ頃のお話でしょうか」

「そのとき鈴木からは、どういう説明がありましたか」

聞く。

そしてまた話してもらう。

「もう全部聞いた」と思ってから、もう一度聞く

お客様が10分、20分と話す。

そして少し止まる。

普通なら、

「ではこちらからご説明します」

と始めたくなります。

私は、そこでもう一度聞くことがあります。

たとえば、

「先ほど手すりのお話がありましたけど、もう少し詳しく教えていただけますか」

すると、

「ああ、それもそうなんだよ!」

と、また始まる。

私はこれを何度かやります。

吐き出す。

止まる。

具体的に一つ聞く。

また吐き出す。

なぜそこまでやるのか。

お客様の中に、

まだ言いたいことが残っているからです。

こちらが早く説明を始めれば、その残っているものは消えません。

心の中に残ったままです。

そしてこちらの説明を聞きながら、

「でも、まだ俺はあの話をしてない」

となる。

これでは、こちらの説明は入っていきません。

だから私は、

反論や説明をしないのではありません。今はしない。

と考えています。

「あんたに言ってもしょうがないんだけどね」が最初の変化

ずっと怒っていたお客様が、ある瞬間、

「あんたに言ってもしょうがないんだけどね」

と言うことがあります。

私は、この言葉が出ると、

少し空気が変わった

と感じます。

最初は、

会社対お客様。

敵対関係です。

でも話を聞き続けるうちに、

「この人自身に怒っているわけではない」

という状態になる。

こちらを、

「敵」

ではなく、

「話ができる人」

として見始めている。

ただし、ここで、

「そうなんですよ。僕の責任じゃないんですよ」

と逃げてはいけません。

むしろ私は、

「いえ、弊社の対応ですから」

と受けます。

担当者の問題であっても、会社として対応する。

なぜなら、

相手が逃げ道をくれたからといって、そこで責任から逃げたら、せっかくできた信頼が壊れる

からです。

営業マンは、ある意味「俳優」である

私は昔から、

営業マンは、ある意味で俳優でもある

と思っています。

こう言うと、

「演技してお客様を騙すのか」

と思われるかもしれません。

逆です。

嘘を演じるのではありません。

本当に申し訳ないと思っている。

本当に心配している。

本当に話を聞きたいと思っている。

だったら、

その気持ちが相手に伝わるように表現する。

これが必要です。

お客様のキッチンの色が間違っていたとします。

お客様が、

「これ、色が違うんですけど」

と言った。

担当者が無表情で、

「あ、本当ですね。確認します」

と言う。

本人は冷静に対応したつもりかもしれません。

でもお客様は、

「え? それだけ?」

と思うかもしれない。

一方、

「えっ、本当ですか。申し訳ありません。すぐ確認します」

と、表情も含めて反応する。

もちろん、事実関係が分からない段階で何でも会社の責任だと認めるという意味ではありません。

でも、

「あなたが困っていることを、私は重大なこととして受け止めています」

という感情は伝えられます。

営業マンは、

嘘を演じる俳優ではない。自分の本当の気持ちを、相手に伝わる形にして表現する俳優である。

私はそう考えています。

怒りを吐き出した後で、初めて「解決条件」を聞く

先ほどの大きなクレームの話に戻ります。

十分に話を聞く。

こちらも謝るべきところは謝る。

そうすると、お客様の怒りの温度が少し下がってきます。

そこで初めて私は、

「では今後、私がどういうふうに対応していけばよろしいでしょうか」

と聞きます。

ここが大事です。

最初に聞かない。

怒りのピークで、

「では、どうすれば納得していただけますか?」

と聞いたら、要求も大きくなりやすい。

でも、全部吐き出した後は違います。

お客様自身も、

「本当に自分が求めているもの」

が整理されてきます。

ここは直してほしい。

これは確認してほしい。

連絡は今後あなたからしてほしい。

この費用については説明してほしい。

意外と具体的になります。

私は、

怒っている最中の要求と、怒りを吐き出した後の要求は違う

と思っています。

だから解決条件を決めるのは、十分に話を聞いた後です。

「返報性」はクレーム対応でも働く

人間には、自分に何かしてくれた相手に何か返したくなる心理があります。

一般には「返報性」と呼ばれるものです。

私はクレーム対応でも、似たことが起きると感じています。

自分の話を本気で聞いてくれた。

途中で遮らなかった。

言い訳しなかった。

困っていることを理解しようとしてくれた。

そうすると、今度はお客様側にも、

「じゃあ、そちらの話も聞きます」

という余地が生まれることがあります。

そこで初めて、こちらの事情や技術的な説明をする。

順番が逆なんです。

こちらが正しいから、まず正論を言う。

ではない。

感情を受け止める。関係を作る。その後に正論を伝える。

私はこの順番を非常に大切にしています。

クレームを中途半端に収めると、過去のすべてが再審査される

大きなクレームには、もう一つ怖いところがあります。

一度信用を失うと、お客様は過去のすべてを見直し始めます。

それまでは、

「この見積で大丈夫だろう」

と思っていた。

でも一つ大きな問題が起きた。

すると、

「待てよ。この見積も本当に合っているのか?」

となる。

契約書を全部見る。

見積書を全部見る。

図面を全部見る。

過去のメールを全部見る。

すると、小さなミスが見つかる。

「ほら、ここも違うじゃないか」

また不信感が増える。

そして、さらに探す。

私はこれを何度も見てきました。

だから、

クレームを中途半端に収めると、過去のすべてが再審査の対象になる

ことがあります。

信用があるときなら、

「ここは概算なんですね」

で終わったものが、

信用がなくなると、

「この概算って何なんですか。本当に根拠あるんですか?」

になる。

同じ書類です。

変わったのは、

人間関係です。

正論だけでは解決できなかった「首都圏の某旗竿地」

私が経験した中でも、特に印象に残っている近隣トラブルがあります。

首都圏のある住宅でした。

細い通路の奥に敷地がある、いわゆる旗竿地です。

そこにあった古い2階建て住宅を解体して、新しく3階建て住宅を建てる計画でした。

土地の価格も高い地域です。

当然、お客様としては、法的に建てられる範囲で敷地を有効に使いたい。

ところが、周辺の方々からすると、

「今まで2階建てだったところに3階建てが建つ」

という話です。

不安になります。

日当たりはどうなる。

圧迫感はどうなる。

工事は大丈夫なのか。

いろいろな感情が出ます。

近隣の方々との関係は、かなり厳しい状態になりました。

冬の屋外で4時間以上、近隣住民に囲まれた

あるとき私は、近隣の方々に囲まれて、冬の屋外で何時間も話をしたことがあります。

4時間か5時間くらいだったと記憶しています。

寒い。

話は終わらない。

何人もの方から次々に言われる。

私は表面上は普通に話していました。

でも途中から、足が勝手に震えていました。

寒さもあったと思います。

緊張もあったでしょう。

自分では止められない。

あのときは、

「住宅営業って、ここまでやる仕事なのか」

と思いました。

正直、

「もうこの仕事、辞めようかな」

と思うくらいきつかった。

クレーム対応というと、後から振り返れば格好よく話せます。

でも、実際の現場では怖いです。

私だって怖い。

足も震えます。

大切なのは、

怖くないことではありません。

怖くても、

「今、この相手の前で何をすべきか」

を考えられることだと思っています。

法律上建てられる。それで終わるなら苦労しない

この住宅は、もちろん法律上建築できる計画として進めていました。

だったら、

「法律上問題ありません」

と言えば終わりでしょうか。

終わりません。

住宅会社側が、

「合法ですから」

と言えば言うほど、

近隣の方は、

「そういう話をしているんじゃない!」

となることがあります。

これが人間です。

法的に建てられる。

技術的にも問題ない。

それは重要です。

でも、

正しいことと、相手が納得することは別です。

私はこの案件で、それを嫌というほど感じました。

境界の古いブロック塀まで問題になった

さらに、この現場では境界部分の古いブロック塀にも安全上の問題がありました。

そのままでは検査上問題になるため、塀を低くするか、必要な補強をする必要がありました。

ところが、その塀は境界上の共有物です。

こちらの判断だけで勝手に切ることはできません。

補強をすれば、今度は車の出入りに影響する。

すでに近隣関係がこじれているところへ、さらに境界の問題が入ってくる。

こうなると、

「建築基準上こうです」

だけでは動きません。

法律。

技術。

所有関係。

お客様の生活。

近隣感情。

全部が絡みます。

住宅のクレームや近隣トラブルが難しいのは、こういうところです。

私は「相手の懐に入ろう」と考えた

何度話しても平行線。

こちらが説明しても、なかなか聞いてもらえない。

そこで私は考えました。

正論を増やしてもダメだ。

だったら、まず関係を変えよう。

お客様自身は、悪い人ではありませんでした。

ただ、非常に口数が少なく、近隣の方とのコミュニケーションが得意なタイプではなかった。

近隣の方々からすると、

「本人が全然出てこない」

「全部住宅会社任せじゃないか」

という不満もあったのだと思います。

そこで私は、お客様を裏切らない範囲で、近隣の方々に自分の本音も少し見せることにしました。

「実は僕も困っているんです」

と。

これは嘘ではありません。

本当に私も困っていました。

お客様を悪者にするつもりもありません。

個人的な情報を漏らすつもりもありません。

ただ、

「住宅会社の営業マン対近隣住民」

という関係ではなく、

「僕もこの状況を何とかしたいと思っている一人の人間です」

という部分を前に出した。

私はこれを、

相手の懐に入る

と考えています。

嘘を作るのではなく「共有できる真実」を前に出す

ここは非常に大切です。

相手の懐に入るために、

お客様の悪口を言う。

会社の悪口を言う。

相手に合わせて嘘をつく。

私は、そういうことをしたわけではありません。

嘘を作ったのではなく、同じ事実の中から、相手と共有できる部分を前に出した。

「私もこの状況には困っています」

「皆さんが心配される気持ちも分かります」

「私も何とかうまく収めたいと思っています」

これは全部、本当です。

人間同士ですから、共有できる感情があります。

そこから少しずつ空気が変わっていきました。

ついには「敵」の家で、お茶とお菓子が出てきた

それまで屋外で何時間も囲まれていた私が、あるとき近隣の方の家へ入れてもらえるようになりました。

「外だと聞かれるから、中で話そう」

というような流れだったと思います。

そして家の中に入る。

お茶が出る。

お菓子まで出る。

少し前まで、

完全に「住宅会社側の敵」

として見られていた私です。

でも、人間関係が変わった。

ここで初めて、私は技術的な話を落ち着いて説明できるようになりました。

3階建てだからといって、単純にすべての家の日当たりが今までより悪くなるとは限らない。

新しい建物には法的な制限もあり、上に行くほど形状が小さくなる部分もある。

以前の2階建てとの違いもある。

もちろん、影響を受ける家もあります。

でも、

「3階建て=隣家すべてが一方的に大損」

という単純な話ではない。

そういうことを、図面などを使いながら説明しました。

すると、

「そういうことだったのか」

と聞いてもらえる。

同じ説明です。

最初に言っても聞いてもらえなかったかもしれません。

でも関係が変わった後なら、聞いてもらえる。

私はこの経験で、

正論は、信頼関係の上に乗せて初めて届くことがある

と強く感じました。

帰りには、お土産まで持たされた

最終的には、その近隣の方々との関係はかなり変わりました。

帰るときには、

「これ持っていきなよ」

と、お土産まで持たされたことを覚えています。

私はお客様にも、

「作戦はバッチリです」

というような報告をしました。

もちろん、すべての問題が魔法のように消えたわけではありません。

住宅会社として譲れないこともあります。

近隣の要求を何でも受け入れたわけでもありません。

でも、

話し合える関係にはなった。

ここが大きかった。

私はクレーム対応というのは、

相手を言い負かすことでも、

こちらが全部折れることでもないと思っています。

話し合える場所まで、関係を戻すこと。

まずそこです。

「相手の懐に入る」とは、迎合することではない

相手の話を聞く。

共感する。

謝る。

懐に入る。

こう書くと、

「相手の言うことを全部聞けばいいのか」

と思われるかもしれません。

違います。

私は、言うべきことは言います。

できないものはできない。

法律上問題がないものは、その根拠を説明する。

会社として負担できない要求なら、その理由を説明する。

事実と違うことを言われたら、必要なところでは訂正する。

ただし、

順番を考える。

最初から、

「それは違います」

「法律上問題ありません」

「契約書にはこう書いてあります」

では、相手の耳が閉じてしまうことがある。

まず感情を受け止める。

相手が何に怒っているのか理解する。

こちらが逃げないことを見せる。

関係を作る。

そして正しいことを言う。

私は、

相手の懐に入るとは、相手に迎合することではない。相手の感情を理解したうえで、真実を聞いてもらえる場所まで近づくことだ。

と思っています。

技術者ほど「人間対応術」を身につけた方がいい

住宅のクレームには、専門知識が必要です。

構造。

雨漏り。

断熱。

基礎。

設備。

施工。

契約。

図面。

法律。

技術が分からなければ、解決できないことがあります。

でも、

技術だけでも解決できません。

どれだけ正しい技術説明でも、相手が聞いてくれなければ届かない。

だから私は、住宅・建築の仕事をする人ほど、

人間対応術

を学んだ方がいいと思っています。

相手の話を遮らない。

表情を見る。

間を取る。

質問する。

感情を受け止める。

謝るべきところは謝る。

すぐ反論しない。

でも必要なところでは言う。

これは営業だけの能力ではありません。

現場監督にも必要です。

設計者にも必要です。

管理職にも必要です。

ホームインスペクターにも必要です。

住宅のクレーム対応は、

建築知識だけではできない。

人間を相手にする仕事だからです。

クレーム対応の一番上手な人は「クレームを起こさない人」

私は長い間クレーム対応をしてきました。

でも、今一番大切だと思うのは、

クレームを上手に収めることではありません。

できるだけ起こさないことです。

約束したら記録する。

分からなければ確認する。

懸念事項は先に伝える。

概算なら、概算の意味まで説明する。

お客様の表情に違和感があれば聞く。

連絡すると言ったら連絡する。

遅れるなら、遅れる前に伝える。

ミスがあれば、小さいうちに対応する。

お客様を気にかける。

そして、

気にかけていることが、相手にも伝わるようにする。

全部、地味です。

でもクレームの多くは、こういう小さなところから始まります。

だから、

クレーム対応の一番上手な人は、クレームを華麗に収める人ではなく、そもそも大きなクレームになる前に気づける人

なのかもしれません。

クレーム対応は「人間を理解する仕事」である

私は住宅業界で30年以上働いてきて、たくさんの人を見てきました。

営業マン。

現場監督。

設計者。

経営者。

職人。

そして何より、多くのお客様。

そこで感じるのは、やはり、

人間は感情の生き物である

ということです。

正しいか、間違っているか。

契約上どうか。

法律上どうか。

技術的にどうか。

もちろん全部重要です。

でも人間は、それだけで動いているわけではありません。

「大切に扱われた」

「無視された」

「ちゃんと聞いてもらえた」

「逃げられた」

「分かってくれた」

「馬鹿にされた」

そういう感情が、問題を大きくも小さくもします。

だから私は、クレームが起きたとき、

最初から、

「どう説得しよう」

とは考えません。

まず、

「この人は、何に一番傷ついているんだろう」

と考えます。

そして話を聞く。

逃げない。

全部吐き出してもらう。

話ができる関係を作る。

その後で、事実を整理する。

技術を説明する。

できることと、できないことを分ける。

解決条件を一緒に考える。

これが、私が現場で身につけてきたクレーム対応です。

正しいことを言えば、人は納得するわけではありません。

正しいことを、

聞いてもらえる関係を先に作らなければならない。

冬の屋外で何時間も囲まれ、足を震わせながら話していた相手の家で、後にはお茶とお菓子をいただきながら話をした。

私にとって、あの経験はそのことを象徴しています。

相手を言い負かしたわけではありません。

こちらが全面的に折れたわけでもありません。

ただ、

敵同士の状態から、話のできる人間同士の状態へ戻した。

クレーム対応で最初にやるべきことは、案外そこなのだと思っています。